|
昔荒野(現・中央町)に大新河岸と呼ばれる船着場があった。ここは、イワシの搾滓(しめかす)やコメなどを高瀬舟に積んで江戸まで運ぶ河岸としてたいそうにぎわった。回船問屋の蔵が棟をつらねて、その中にモリゴンという大きな問屋があった。
ある夜のこと、モリゴンの戸をトントンたたく音がした。番頭が起き出して、戸をあけようとすると「モリゴンさん、きょうお宅に泊まった客人が、わしの子をいじめた。なにも悪いこともしないのに、なんでカラカサなんかでたたいたんだ。そんなことよしてくらっせ」という声がした。
そして、ピタピタとぬかるみを歩くような足音が遠ざかっていった。番頭は、いそいであとを追いかけていったが、姿が見えず、やがて川岸でポチャンという何かが水に飛び込むような音がした。翌朝、泊まった客人に聞いてみると、きのうの昼、河岸で子河童をふざけてかまったことが分かった。やがて、その噂が河岸じゅうに広まった。河岸に働く人たちは、「河童は船を水から守ってくれるという。もういじめるのはよそう」と、戒めあうようになった。それからというもの、水におぼれたり、難破船がでたりすることがぱったりとやんだ。雨降りの晩など、通りをピタピタだれか歩くような音が聞こえると、「大新河童が見回っている」と河岸の人はうわさしあったという。
|